016154 ランダム
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僕等の世界

僕等の世界

良い子



『あっくんは良い子ねぇ』

『泣いたりしないんでしょ?良いわねぇ、ウチの子はすぐ泣くのよ?疲れちゃうわ』

『ウチの子も、あっくんみたいに良い子になってくれないかしら』



良イ子ニナンテ、ナリタカッタ訳ジャナイ



父さんと野球がしたくて小遣いを貯めて、やっとの事で買ったグローブとボール。
仕事から帰ってきた父さんに駆け寄ってグローブを見せた。


『父さん、あのね・・・これ、僕がお小遣い貯めて・・・』
『敦・・・父さんは仕事で疲れてるんだぞ!?過労死でもさせたいのか!?』


いきなり怒られ幼かった自分は今日は機嫌が悪いだけだろうと思い、次の日にも話し掛けることにした。
しかし、またその日も怒声を浴びせられた。その次の日も、そのまた次の日も。
結局一度も話を聞いてもらえず、使い道の無くなった新品のグローブとボールは部屋の押し入れに入れられてしまった。


学校の友達とも間で、水風船の中に泥水を入れて投げ合う遊びが流行った。
ある日、腹周辺に風船が当たり服が泥だらけになってしまった。
友達の親は「服を汚すのは子供が元気な証拠だ」と笑いながら子供を許していた。
自分もその言葉に納得し家へ帰った。
いつも通りに玄関のドアを開け家へ入ると母さんが居た。


『母さん、今日友達と遊んできたんだ。』
『どうしてお洋服汚れてるの!?悪戯でもしてるの!?』
『ぇ、違うよ・・・母さん・・・』
『母さん情けないわ!外の水道で泥を落としなさい!!でないと家には入れないわよ!?』


父親と同様、何も聞いてくれない母親は少々ヒステリック気味になりながら洗剤を無理矢理押し付け、汚れた服を外で洗わせた。

僕が「良い子」じゃないから・・・。
僕が「良い子」だったら、父さんも母さんも怒らないでいいんだ。


それからと言うもの、『良い子』になる為だったら何でもした。
父さんや母さんに褒めてもらいたかった。
だから、胸の奥底で泣き叫んでいる自分を殺してまで・・・。


案の定『良い子』にしていれば誰も怒らなかった。
それどころか、父さんと母さんは俺を褒めた。


「良くやった」
「流石私の息子」


嬉しかった。
嬉しかった、筈・・・。

本当は、嬉しさの一欠けらも無かった。

それが悪かったのかも知れない。
今俺は、アイツ等両親を憎んでる。
殺したいほどに・・・。

本当の俺を奪ったアイツ等が、憎くて憎くて憎くて憎くて・・・!!!


「行ってらっしゃい」
「行ってきます」


『良い子』はもう、ウンザリなんだ。




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